入管法改正5つのポイント(代表質問全文と法務大臣の回答)
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2021年4月16日の本会議における国民民主党・山尾志桜里の代表質問とそれに対する上川法務大臣の答弁です。
代表質問全文
国民民主党の山尾志桜里です。
国民民主党・無所属会派を代表して、出入国管理及び難民認定法等改正案について質問します。
1.収容長期化の要因を的確に把握し率直に説明せよ
収容の長期化を解決すべきという目的には賛成です。ただ、その原因を「外国人による送還忌避」に矮小化することには異議があります。
入管側の難民認定消極主義そして認定待ちなどの間の全件収容主義、こうした入管側の問題にも大いに起因していることを認めるべきです。
したがって、第一に認定すべき難民は認定する、第二に収容判断と収容環境について人権状況を改善する、その上で第三に帰るべきなのに帰らない送還忌避の方には適切に帰っていただく、こうした3つの方針に基づいた解決策が求められています。
そこで大臣に伺います。
今回法改正の中身をみると、難民認定制度の運用を見直したり、収容に代わる監理措置を創設したり、不十分とはいえ入管側の問題点も改善しようとはしています。にもかかわらず、政府の説明では、外国人側の問題ばかりをことさらに強調して入管側の問題点を認めないがゆえに、市民社会の理解を得られていません。収容長期化の原因は外国人側の送還忌避だけですか、他にあるならそれはなんですか、ここは率直に説明するべきです。認識を伺います。
(上川法相答弁)
長期収容の原因についてお尋ねがありました。
現行法では、日本から退去すべきことが確定した外国人については、原則として退去までの間収容施設に収容することとされています。
その上で、退去行政処分を受けた外国人が退去を拒み続け、かつ送還の妨げとなる事情がある場合に、収容が長期化する場合があるものと認識しています。
また、現行の仮放免制度においては、対象外国人に対する指導・助言を行うものが予定されていないため仮放免できるものが限られます。
こうした現状を踏まえ本法律案において、監理人による監理に付することで逃亡等を防止しつつ相当期間にわたり収容することなく、社会内で生活させる措置として監理措置制度を創設するものです。
2.認定すべき難民は認定する
日本に家族がいるなど国内の事情で留まる場合は在留特別許可、本国での「迫害」のおそれなど国外の事情で留まる場合は難民認定。
在留特別許可については、これまで入管裁量のブラックボックスだったのが、今回「申請」手続きができ、判断基準が明示され、不許可の場合は理由が告知されるようになったことは評価します。
他方、難民認定についてはこれまで、「迫害」の解釈が国際標準と比べて余りにも狭すぎる上、着の身着のままで逃げてきた当事者に客観的な証拠を要求するなど、問題が数々指摘されてきました。今回の運用の見直しにより、「迫害」の解釈は適切に広がるのか、入管側の情報収集能力向上によって当事者の過度な負担を減らせるのか、具体策をどう準備しているのか伺います。
また、人種や宗教など特定の理由による迫害から保護する場合は難民制度を使い、無差別攻撃による命の危険など条約上の難民と認定し難い場合は「補完的保護対象者」とする、こうした制度区分が提案されていますが、その実効性を伺います。ウイグル・香港・ミャンマーなど人権弾圧国から日本にきている外国の方々にとって、今回新設される補完的保護対象者制度や難民認定運用の見直しは、送還の不安を解消するものとなっているのでしょうか。人権国家の法務大臣として心ある答弁を求めます。
(上川法相答弁)
次に、難民認定制度の運用の見直しについてお尋ねがありました。
難民の認定は、申請者が特定の人種・宗教・国籍等を理由に迫害を受ける恐れがあることについて申請者ごとに判断しています。
ご指摘の「迫害」の解釈を含め、難民該当性に関する規範的要素については、難民認定制度の透明性向上の観点から現在我が国及び諸外国でのこれまでの実務上の先例、UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)が発行する諸文書等を参考としつつ、その明確化を検討しています。
また、UNHCR等の協力を得て難民認定申請者の申告情報や、難民調査の手法等に関する研修を実施し、難民調査官の調査能力の向上に努めているところです。
次に、補完的保護対象者の認定制度の創設や難民認定制度の運用の見直しの実効性についてのお尋ねがありました。
現在も難民条約上の難民とは認められないものであっても本国調整等を踏まえ、人道上の配慮が必要と認められるものについては、在留特別許可等により本邦への在留を認めているところです。
また、本法律案では難民条約上の五つの理由によらずとも迫害を受ける恐れがあり、それ以外の難民の要件をすべて満たすときは難民に準じて補完的保護対象者と認定することとしています。
本法律案や先ほど述べた運用の見直しにより、難民認定制度及び補完的保護対象者認定制度を適切に運用し、今後とも真に庇護を必要とするものを確実に保護してまいります。
3.収容の判断と収容環境に関して人権保障を徹底する
今回、施設に収容せず、監理人のもとで社会生活を営む制度の新設が提案されています。全件収容主義という基本方針の転換と捉えてよいのか、収容と管理措置のどちらが原則となるのかお答えください。
また、この監理人については、罰則付きの厳しい監理責任を定める一方で、報酬の定めはありません。引き受け手は確保できるのでしょうか。実際、なんみんフォーラムが弁護士や支援団体を対象にアンケートしたところ、6割の方が現に外国人を支援しているという母集団にもかかわらず、9割の方が現政府の提案では監理人になりたくてもなれない、抵抗があると答えています。大臣に伺います。罰則付きでは支援したくても支援できない、という支援者の声にどう答えますか。財政支援はあるのでしょうか。弁護士が監理人となった場合、違反行為の届出義務と守秘義務とが矛盾しませんか、答弁を求めます。
(上川法相答弁)
次に収容と監理措置についてお尋ねがありました。
監理措置は収容に代わる選択肢として、当該外国人の逃亡のおそれの程度等を考慮して相当な場合には、監理人の監理に付する措置をとりながら収容せずに退去強制手続きを進めることとするものであり、個別の事案に応じてその決定を行うものです。
そのため法制度上、収容と監理措置のいずれかが原則という性質のものではありません。次に、監理人の届出についての罰則、監理人への財政支援、弁護士の守秘義務との関係についてお尋ねがありました。
監理措置に付されたものによる逃亡等の条件違反行為を未然に適切に防止するため、監理人は外国人の生活状況を把握しつつ指導監督するとともに必要な事項を届け出なければならないとしています。そしてそのような届出義務を担保するため違反した場合は過料の制裁を科することとしたものであり、こうした届出義務の必要性をご理解いただけるよう丁寧に説明を尽くしてまいります。監理人には基本的には退去強制手続き中の外国人の依頼を受けて就任するものであり、その依頼に基づく費用は当該外国人の側において負担すべきものであり、監理人に対する財政支援を行うことは適切ではないと考えています。
弁護士が届出義務を履行した場合、弁護士の守秘義務に違反するかどうかは個別の届出の内容等を踏まえて判断されるべきものであり、一概にお答えすることは困難です。
最も、一般的に弁護士の守秘義務は当該秘密の主体の同意があれば排除されると考えています。
4.送還忌避の方には適切に帰国いただく
入管側として改めるべきを改めた上で、送還忌避に該当する方には適切に帰国頂くことは国家として当然です。
ただ、難民認定手続き中であっても送還できるようにする制度変更には強い懸念をもちます。本来保護すべき人を本国に帰してしまい、非人道的な結果をもたらすことはありませんか。
申請3回目以上の方を送還可能とする提案について、3回目以上の申請でようやく難民認定され救済された例が今まであるのかないのか、現在3回目以上の申請者は何名いるのか、その方々は法改正を契機に送還されてしまうという事態がありうるのかお答えください。
(上川法相答弁)
次に、3回目以降の難民認定申請者を送還停止効の例外とすることについてお尋ねがありました。
3回目以降の申請に対し難民認定手続きで難民認定された事例は確認可能な限り承知していません。
また、令和2年に難民認定申請をした3,936人のうち107人が3回目以降の申請です。そもそも送還停止効は難民認定申請中のものの法的地位の安定を図るために設けられたものです。すでに2度、難民等の不認定処分が行政上確定したものは2度にわたり難民等の該当性について判断されその審査が十分に尽くされており法的地位の安定を図る必要はないものと考えられます。
最も、3回目以降の申請においても難民等の認定を行うべき相当の理由がある資料を提出した場合は送還を停止することとしています。
5.ぜひ野党案を参考に建設的な修正を
私たち国民民主党は、他の野党とともに入管法改正案の対案をすでに提出しています。難民認定の公正を保つための独立行政委員会を創設すること、全件収容主義を改めること、収容令状の発付は裁判所が行うものとすること。いずれも本質的な改正ですが、真摯に検討頂けるか答弁を求めます。
日本の出入国管理行政は国際社会からの厳しい指摘を受けています。どの国も国内に人権問題を抱えていますが、もっともな指摘には耳を傾け内政の過程で健全に治癒できるか否かが国家の品格を左右します。この法改正の審議を通じて、日本は品格ある人権国家であることを示そうではありませんか。そのことを呼びかけて、代表質問といたします。
(上川法相答弁)
最後に、議員立法及び法律案の修正についてお尋ねがありました。
議員立法として提出されている法律案については、法務大臣として所感を述べることは差し控えさせていただきます。
その上で、本法律案は在留が認められないものを迅速に送還することと共に在留を認めるべき外国人を適切に保護するため在留特別許可の申請手続きや補完的保護対象者の認定手続き等を新たに設けること、収容されることなく退去強制手続きを受けることを可能とする監理措置制度を創設すること、収容中の一層適正な処遇を実施すること等を内容としており外国人の人権に十分に配慮した適正なものであると考えています。
法務大臣としましては、こうした政府案に幅広くご理解をいただけるよう今後の国会でも審議におきまして丁寧にご説明を尽くしてまいりたいと存じます。