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政府のコロナ特措法改正案にみる5つの大問題を速報します

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 今日、政府から特措法改正案&感染症法改正案についてヒアリングしました。報道ベースで感じていた漠然とした不安が、明確な問題点として浮かび上がったので、ここにnoteします。❶~❸は特措法、❹~❺は感染症法の論点です。

❶【予防的措置という「ミニ緊急事態宣言」により罰則付きで行動が制約される件】

 政府はいま、「予防的措置」という新しい仕組みを検討しています。緊急事態宣言まで出さずとも、国民の行動や生活を制約したり禁止したりできる仕組みです。いわば平時と緊急時の中間に「ミニ緊急事態」をつくるイメージです。その内容と問題点を速報します。

<問題点>

①「予防的措置」といいつつ、緊急事態並みに制限・禁止できてしまう!
政府ペーパーには、「施設の営業時間の変更等の措置を要請することができる」と書いてあります。しかし、今日の政府ヒアリングで判明したのは、実は「営業時間の変更とは例示。場合によってはお店の休業要請もできる。学校や保育園の休校休園要請もできる」ということでした。「営業時間の変更等」の「等」がものすごく幅広なんです。緊急事態で許される「施設の使用制限」(45条2項)と変わらないんです。実際、違いを聞いても、担当の方は答えられませんでした。つまるところ、「緊急事態宣言」並みの措置が「予防的措置」という名目でできてしまうということになります。

②「予防的措置」であっても、緊急事態並みに過料という罰則がある!
政府ペーパーによると、今回の特措法改正では、「緊急事態」での休業要請などの違反に対して、要請→命令→過料という順番で罰則が加えられる予定です(現状は要請→指示まで)。そして、「予防的措置」を見てみると、こちらにも「緊急事態」と全く同じように要請→命令→過料。つまり罰則が予定されているのです。
緊急事態宣言と同じように罰則で脅しながら、同じような制約や禁止ができるなら、一体何のためにわざわざ緊急事態とは別に「予防的措置」をつくるのでしょうか。

 ③「予防的措置」だと、政府は国会に対して報告しなくてよくなる!
なぜ「予防的措置」をつくるのかという問いに対して、政府の本音は案外ここにあるかもしれません(絶対そうは言わないけど)。同じ休業要請するにしても、緊急事態宣言だと国会報告が必要ですが、「予防的措置」なら不要なのです。国会をスルーできるのです。国会閉会中でもできてしまうのです。総理の一存でできてしまうのです。
今議院運営委員会というところで西村担当大臣が各党の質問に答えているあの手続きが国会報告です。あの手続きですら、菅総理は出てこないし、時間も不十分。飲食店の息の根を止めるような重たい制約をかけるのに、万全の補償体制は担保されないなど、重要な課題を詰め切れないまま宣言が発出されてしまっています。だからこそやはり、緊急事態宣言を出すのに国会報告では足りないと言っているわけです。国会承認を必要にして、内閣の説明責任を重くし、賛成・反対の意思表示を通じて国会議員の責任も重くすべきなのです。
にもかかわらず、この「予防的措置」では、国会報告すら不要!国民からすれば、お店を閉めろとか、学校行くなとか、保育園休めとか命令されて、違反したら罰則という一大事なのに、総理大臣は国民の代表者である国会に説明すらしないまま命令できてしまうのがこの「予防的措置」ということになります。

④「予防的措置」だと出せる期間の限界がない!
緊急事態宣言だと、少なくとも最長2年までという限界があります。これでも一度に発出できる期間としては長すぎると思いますが、この「予防的措置」には期間の限界が書いてありません。緊急事態と同じように国民の仕事や生活をめちゃくちゃ制限できるにもかかわらず、期間の上限がないし、国会もスルーできるとなれば、政府としては、「緊急事態宣言より予防的措置にしといた方がラクだし便利!」となるのではないでしょうか。そして、そんなやり方を可能にしてはいけないと思うのです。

 <まとめ>
というわけで、⓵平時 ⓶予防的措置 ⓷緊急事態宣言という3段階をつくることが本当に必要なら、政府のやれること・必要な手続きなども3段階に区分けすべきではないでしょうか。

例えば、「予防的措置」には国会報告を必要とし、違反に罰則まではつけない。直接国民の生活や行動を制約することに主眼をおくのではなく、医療体制を確保するため臨時の病院開設を可能にするような措置を積極的に定める。他方「緊急事態宣言」まで行く場合には、国会承認を必要とし、しかし事態が深刻なので命令違反には罰則がありうる。こんなイメージで検討したらどうでしょうか。

もちろん、予防的措置でもできることと、緊急事態宣言を出して初めてできることの区別もしっかり議論すべきですし、予防的措置であれ期間の上限を決めておくことが重要だと思います。

あわせて、平時においても特措法24条9項を使って、都道府県知事が休業や休校や休園など、なんでも要請できてしまう運用は見直す必要があるでしょう。

とにかく、この「予防的措置」なるものが、総理の説明責任を軽くして国会のチェックをスルーするための「ミニ緊急事態宣言」として利用されるようなものにならないよう、しっかり議論が必要です!

❷【国民に罰則はかけるのに政府の補償は漠然とした努力義務にとどまっている件】

 今回書き込まれようとしているのは次の2点です。

①休業要請などによる経営悪化を緩和するために、国と地方公共団体が事業者を支援する努力義務
②感染症に対応する地方公共団体の施策を支援するために、国が財政上の措置を講ずる努力義務

 書き込まれること自体は、書かれていない現状よりマシです。しかし、①については「支援」という言葉が抽象的過ぎて、それは財政的支援を意味するのかどうかすら曖昧です。

あわせて、判断要素がなにも書かれていないため、事業者に応じた適切な支援がなされるかも疑問。しかも行政の責任は努力義務どまり。②については「財政上の支援」とは明示されているものの、やはりその範囲は不明確で努力義務どまり。しかも①も②も「努めるものとする」と書いてありますが、これは「努めなければならない」よりも一段低い、つまり弱い方の努力義務なのです。

もちろん、法律で書き込める限界はあるわけですが、せめて「事業規模に応じた」など判断要素を書き込み、努力義務を強めるなど行政の責任を強化すべきです。いくら罰則をかけても、補償がなければ要請も命令も守れないという現実の暮らしをもっと認識してほしい。

❸【緊急事態宣言に国会承認が必要とされず、政府の説明責任が果たされていない件】

 この件については❶で既に力説しました。国民生活の一大事である緊急事態宣言について、国会への報告で足りるとしてしまったことが、政府側の説明責任をどんどん形骸化させています。安倍政権ではそれでも安倍総理が国会報告をしていましたが、菅政権では総理による報告すら行われなくなりました。野党側が総理による説明を求めてもスルーされる原因のひとつがここにあります。承認事項であれば、「総理がきちんと説明に立たなければ承認の判断ができません!」というように言えるのです。

国会議員が賛否を問われないことで、結果として責任を内閣に転嫁してしまっていることも大問題です。国民の仕事や生活や行動を強く制限するからには、国民の代表者である国会で議論し、1人ひとりの国会議員が「賛成」「反対」を通じて判断を明らかにすべきだし、そのプロセスこそが、国民もその制限に服するという正統性を生むのだと思います。

❹【自宅ホテル療養に応じないと入院勧告され、これに応じないと罰則がかかる件】

 ここからは感染症法の話なので、基本的に緊急事態宣言が出てるかどうかとは関係なく起きる問題です。そして、この件は大問題です。

今回の提案は、この❹のタイトルどおり、自宅ホテル療養に応じない人は、なぜか入院を勧告され、それにも応じないときは罰則をかけるというものです。

①現在、入院の必要があるのに入院できていない人が急増しているなかで、入院の必要がない自宅・ホテル療養者がそれに応じないからといって入院させたら、病床逼迫に拍車がかかりますよね?

②しかも、自宅ホテル療養を要請されたけど自分としては入院したい!という人は、自宅ホテル療養を拒否すれば入院勧告してもらえる、という歪んだ事態が生じますよね?

③自宅ホテル療養に応じてもらうという目的を果たしたいなら、入院勧告ではなく自宅ホテル療養勧告をして、もし本当に必要ならそれに応じない場合に罰則をかける方がまだマシな制度ではないでしょうか?

政府は、入院勧告は治療を施す本人に対する便益があるのでそれに応じない場合には罰則をかけてもよいが、自宅ホテル療養勧告は本人に対する便益ではなく社会のための隔離なので、応じないからといって罰則はかけられないという説明を繰り返しています。これって、めちゃくちゃ歪んだ人権感覚ではないでしょうか?

しかも自宅ホテル療養していても必要に応じて速やかに入院できる連絡支援体制をとることが必要だし、これって本人にとって便益そのものではないですか?

もう、どうしてこんな提案が出てきたのか理解できませんが、きちんと反論して再考してもらいましょう。

❺【入院勧告や行動報告に応じないと罰則がかかる件】

 こちらは患者や感染者が入院勧告に応じない場合や、感染に関する行動履歴などの報告に応じない場合(ウソをついた場合含む)に罰則をかけるという提案です。

本当に慎重にも慎重な議論が必要だと思います。少なくとも、入院勧告や行動報告を拒否した人数や割合、その拒否によってどんな事態が生じたかなど、立法事実を政府が提供する必要があると思います。そして今日のヒアリングでは、「それは保健所等からの情報収集と集計が必要で、今できていない」というのが政府の答えでした。

入院拒否や行動報告拒否には、人によって様々な理由や背景がありえます。また、罰則をもって入院や行動報告を強制する仕組みは、むしろ検査を受けなかったり検査結果を隠蔽する方向に働き、感染を拡大させるリスクもないとはいえません。

なにより、病院に入れるとか行動を報告させるというのは、本当に強度の人権制約なので、憲法上の緻密な議論が必要不可欠。それがなされていない安易な提案に安易に賛成はできないので、きちんと議論しましょう。

 政府提案の概要は以下のとおりです。

新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の方向性
感染症法・検疫法の改正の方向性

また、今日、日本医学会連合が出した「感染症法等の改正に関する緊急声明」では、入院強制などに罰則を入れることに対して、深い憂慮が示されています。

あわせて、改めて”リスクが高まる「5つの場面」”等をこちらでおさらいしていただけたら!


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