「#検察庁法改正案に抗議します」をめぐって知っておいてほしいこと
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「#検察庁法改正案に抗議します」の声が拡大してます。同時に、それに対して反論や別の切り口の意見もでてきています。抗議表明もそれに対する意見表明も民主主義のプロセスとして有意義だし、ポジショントークじゃない限り接点も見出せそう。今回は、代表的?な4つの意見をピックアップ。
①「国家公務員の定年引上げにまで反対するのか」
②「検察官も国家公務員なんだから同じでよいじゃないか」
③「起訴独占主義や人質司法の問題に比べれば些末」
④「反対する人は検事総長は誰が決めるべきだと考えているのか」この4つの問題提起について、私なりの回答です。
①「検察官以外の国家公務員の定年引上げにまで反対するのか!」という意見について
今回抗議している人の多くは、実際そこには反対していませんよね。
「#検察庁法改正案に抗議します」の文面のとおり、抗議の対象は検察庁法改正案と明示されているので、国家公務員法改正案への反対と同視するのはちょっと違う。もしかしたら、この批判をされている方は国会事情に詳しいのかもしれません。両案が束ね法案で提出されているから一括して賛成か反対かしかできないという知識を持っているのかも。ただ、少なくとも一般国民が意見を表明するのに、そんな国会の事情に左右される必要はないです。
国会議員はたしかに、このままだと一括賛否を迫られることになります。だからこそ、国家公務員法改正案と検察庁法改正案の束ねをほどいて、前者は成立させ後者はコロナの収束を見ながらじっくり議論すればいい。そうすれば、一律賛成か反対かではなくて、国民の良識に沿った賛否を国会の採決に反映させることができます!
②「検察官も国家公務員なのだから、両者同じく定年を引き上げてもいいではないか!」という意見について
一律に定年を引き上げる分には、検察官であれその他の国家公務員であれ、内閣による「えこひいき」の余地がない。なので今回大きな論点にはなってません。論点はむしろ、
❶一般の国家公務員だけでなく「検察官」に対してまでも
❷内閣が選んだ個別の検察官に対して「特別」に
❸定年「延長」させることができるし
❹さらに特別に「役職を維持」させることもできるようになってしまう
それによって「えこひいき」の余地が格段に広がることが問題かと思います。
❶~❹に沿って、少し丁寧に説明させてください。
❶検察官が国家公務員であることは、検察官をその他の国家公務員と同じように扱ってよいこととイコールではありません。検察官は国家公務員(行政の一員)なのに司法の一員でもあるという特別な仕事です。内閣総理大臣を起訴することもできる唯一の国家公務員職です。だから、個別の人事については内閣(行政)の関与の余地を小さくして、内閣からの独立を維持する必要があります。この必要性は三権分立(その中でも司法と内閣の分立)という国家統治の基本から導かれる要請なので、この要請を勝手に無視して他の国家公務員と同じ扱いにしてしまうと、国の基本構造を壊してしまう。だから、検察官は国家公務員ではあるけれども、他の国家公務員と違う扱いをしなければならない、のです。
そして❷今回の法案では、まさに検察官と他の国家公務員を乱暴に同じ扱いにしているので、内閣による個別の検察官に対する「えこひいき」の余地が拡大しています。
つまり、今回の法案が成立すると❸内閣が、定年延長させる検察官とさせない検察官を選べるし、❹63歳以上の検察官の中からヒラに降格させる検事と幹部のまま続ける検事を選べることになってしまうのです。
「なんとしても検事総長になりたい!」という検事は少ないですが、「できることなら降格しないで長く働き続けたい!」という検事はたくさんいる、と予想されます。多くの検事の基本的な人生設計に関わる平凡な願い。平凡な願いだけど、大事な家族の将来にも関わる強い願い。こういう願いを叶えるかどうかを左右する力を、内閣に持たせるのは、やはりよくないでしょう。内閣に対する検察の独立がじわじわ害されてしまいそう。
③「検察官起訴独占主義や人質司法の問題に比べれば些末な問題だ」という意見について
検察官が強すぎるのも、強すぎる検察官と内閣が癒着するのも、これはどちらも大問題だと思います。
たしかに、起訴権限を独占する検察が、否認と長期勾留をセットにして自白を迫り、高い有罪率を叩き出しているという構図自体は、本当に重大な問題で、私も危機感を持ち続けています。法務委でも指摘してきました。通信傍受の範囲が広がり、司法取引によって第三者供述も得やすくなって、捜査機関に武器は増えたのだから余計、自白偏重型人質司法を根本的に変えていくべきだと思います。
ただ、この制度運用的に「強すぎる」検察と内閣が、なれ合いの構図の中で人事権を通じてタッグが組みやすくなったら、国民に対する更なる脅威にもなってしまいます。だから、「強すぎる」検察権力を統制するために刑事司法手続きを改善することも必要だし、「強すぎる」検察と内閣の緊張関係を維持・強化することも必要で、どちらも大事だと思うのです。
④「反対する人は、検察トップの人事権のあり方についてどうかんがえるのか」という意見について
今回の検察官改正法案をめぐる問題は、そもそも検事総長を内閣が決めてよいのかという話(論点1:実質面・統治システム)と、検事総長を内閣が決めること自体は合法だとしても今回のやり方は違法だったり姑息だったりするんじゃないかという話(論点2:手続面・プロセス)とに区別できます。この意見は論点2について抗議する人たちに対して、そもそも論点1についてはどう考えるの?という問題提起がなされたものだと思います。
たしかに今回、この論点2・プロセスへの疑問が、多くの抗議の声となってあがってますよね。「国会で説明した法解釈を勝手に180度変えるのはおかしいんじゃないか」とか、「黒川検事長だけ定年延長する具体的な理由が説明されないと、結局検事総長に昇格させるのが狙いではないかと疑ってしまう」とか、「実際に定年延長をしてしまったあとで、突然総理が解釈変更を宣言したのは納得できない」とか「こうした人事を認めることの良し悪しをきちんと議論しないまま、合法化する法改正を突然提出してきて、コロナで大変なときに強行することはやめてほしい」とか。私が2月から国会で森大臣と議論してきたのも主にこの点でした。でも実質的な問題として、「そもそも検察トップの人事は誰が決めるべきなの?」という論点1・統治システムの論点が、今社会に提示されたのはものすごく有意義なことだと思います。
ただ、論点1・統治システムの回答を今持ち合わせていなくても、論点2・プロセスについておかしいと抗議の声をあげるのは全く構わないし、どんどんされたらいいと思うんです。その上で、今回の出来事に問題意識を持った多くの人が、そもそも検事総長の人事権は内閣にあるという制度を知り、でもこれまでは介入せず検察内部に任せてきたという歴史的運用を知り、その運用でよいのかという疑問も持つかもしれない。いろんな切り口で問題点が整理され、他の選択肢も出てきて、結果、論点1・統治システムについての社会的議論が成熟していく契機になればよいと思います。
ここで論点1・検事総長の人事権について、大づかみに選択肢をあげるなら
〇制度としては内閣に持たせるが、運用で検察内部に委ねるという現状を維持する
〇制度と運用を一致させて内閣に決めさせることをよしとする
〇制度を変えて内閣以外に人事権を持たせる
というように選択肢を提示することができます。
本当に難しい問題で、私も悩みながらよりよい回答を見つけていきたいのですけれど、今後様々な知恵を交換するためにも、現時点の私の考えを書いておきます。
私は、今の日本の統治において、「本音と建前」「制度と運用」をできる限り一致させて空洞化した法の支配を再構築することがすごく重要だと考えてます。そして、検事総長人事については今のところ内閣以外に適格な権限の置き場所が見当たりません。なので、現時点では制度としても運用としても内閣が決定権を持つしかないと考えています(もちろん、ここから社会的な議論が広がって、よりよい権限の差配が見いだせれば、考えも発展させていきたい)。ただし、本来整備すべき条件を2点示しておきたいと思います。
❶最高裁判所裁判官の人事権については、内閣から外すこと
→最終判断権者たる裁判官は、起訴権者たる検察官よりさらに強く政治的中立性と独立性が必要なので、少なくとも最高裁の人事は内閣から独立させるべき(ここは憲法改正が必要です。国会・裁判所・弁護士会からの公的な推薦方式にもとづいて国会承認を必要とするなど工夫の余地はあります)。
❷個別の検察官人事に対する内閣の関与の余地を拡大させないこと
→検察トップの人事権は内閣が持つからこそ、むしろそれ以上個別の人事への内閣の関与を拡大せず、検察と内閣のギリギリの緊張関係を維持すべき。総長も左右できるんだからヒラ検事も左右してよいということにはならないんだろうと思います。そもそも、たくさんの検事に「もしかしたら自分だけは特別に降格なしで働き続けられるかも!」という期待を持たせる制度をつくる必要がないし、そんな特別扱いパワーを内閣に持たせるのはマイナスしかないです。
この問題については、野党側から、検察庁法改正提案部分について削除した上で検察官には定年延長は認めないとする修正案を提出する予定です。
国家公務員法から検察庁法部分を切り離すこの提案をぜひ受けてもらいたい。その上で、きちんと議論しよう。今回可視化された「検事総長は誰が決めるべき?」という本質的な統治の問題に立ち戻り、内閣が握ってよい検察官人事の範囲と限界を、丁寧に話し合おう。専門家の様々な意見を聞き、国際比較を共有し、与野党ともにじっくり知恵を出し合っていく当たり前の国会を当たり前に見てもらいたいなあ。と思っています。